2019年10月、新しい多焦点レンズであるパンオプティクス( PanOptix, 日本アルコン)が発売されました。パンオプティクスの特徴としては、3箇所にピントが合う、つまり、遠(5m以上)・中(60cm)・近距離(40cm)に焦点が合うレンズであるということです。運転やテレビだけでなく、パソコンやスマホ、読書についても眼鏡なしで見えるというものです。
パンオプティクス(PanOptix) とは
パンオプティクスは、現在個人輸入等にて使用されているFine Vision(PhysIOL社)やAtLisa(Zeiss社)と同系統のものですが、見える距離に若干の違いがあり、他のは3焦点レンズよりも生活距離により適したレンズです。
現在までに日本国内で発売されている2焦点レンズや焦点距離拡張型レンズ(※これらは一般に「多焦点レンズ」と呼ばれることが多いです)の利点は、遠近ともに視力があい、眼鏡の使用頻度が少なくなることですが、本を読んだり裁縫をしたりする距離は拡大鏡を使うなどの工夫を要する場合もあります。一方、3焦点レンズはこれらすべてがよく見えるレンズです。ただし、薄暮時の見え方が悪い、光源を見たときにハローグレアといった不快感を感じるなど、いくつかの注意点もあります。
パンオプティクスの実力について論文報告をまとめ、使用経験のあるドクターからのコメントを掲載していきます。
論文報告
Lawless Mらはパンオプティクスの術後視力について検討しており、裸眼の遠方視力、中間距離視力、近方視力は良好で、他の3焦点レンズであるAtLisaやFineVisionとほぼ同等であったとしています。(※1)
またGarcia-Pérez JLらは、明るい時、薄暮時ともに1.0、0.8、1.0であり、2%(58人中2 人)が術後の見え方に不満を持っており、5%(58人中3人)の患者は手術後に眼鏡を必要としたと報告しています。(※2)
現在までに発売されている2焦点レンズとの比較においても、Mencucci Rらは、2焦点レンズに比べ3焦点レンズの方が近見視力は有意に良いと報告しています。(※3)
一方でやはり薄暮時の視力については2焦点レンズと比較すると若干劣るとの報告もあり、夜に運転をしたり、出かける頻度が多い方の場合には、日中に比べると少し見えにくいことが気になるかもしれません。
使用経験のあるドクターからのコメント
当院では年間150件程度、多焦点レンズを使用した白内障手術を実施しておりますが、2焦点レンズの大きな特徴として、年齢によって視力の出方に差があることが挙げられます。皆さん、遠方は良く見えるようになります が、近方視力に差が生じます。40代から60代前半までの方では、近くの視力もとても良い傾向にありますが、一方で、60代後半以降の方の場合は、小さい文字を見るときには拡大鏡を使うという方が多くなっています。
パンオプティクスについては、年齢を問わず遠くから近くまで良くみえている方が非常に多く、眼鏡や拡大鏡が欲しいとご要望される方は現在までいらっしゃいません。
ハロー・グレアについては、特にハロー(光源 の周りに出るぼやけたリング状の光)を訴えられます。「手術前に聞いていたから気になりません」「逆に綺麗だなあって見てます」「運転の時にはちょっと気になります」「星空を眺める気分にはならないです」など、お声はさまざまです。おおむね生活していくうえで問題になるものではないようですが、夜間運転時の右左折時、交差点進入時の行き交う車のヘッドライトの周りにリングが出ていることで遠近感がつかみにくいようですので、慣れるまでは特に慎重に運転しましょう。
特に、明るいところでの見え方の良さに感動される方が多く、メリットがデメリットを圧倒的に上回っているようで、見え方を割り切ることができ、気にせずに過ごされているようです。
以上のことから、お若い方、夜間の外出が多い方は今までの2焦点レンズを、夜は基本的に家にいるし運転もあまりしない、出かけるとしても食事に出かける程度、もしも気になるなら夜の運転はなるべく控える、という方は3焦点レンズを選ぶというのも良いでしょう。
多焦点レンズ、3焦点レンズだけではなく、従来の単焦点レンズを含めた多くの選択肢がありますので、自分のライフスタイルに合ったレンズがどれなのか?手術後にやりたいことはどんなことなのか?医師とじっくり相談されると良いでしょう。
参考文献・画像引用
(※1) Visual and refractive outcomes following implantation of a new trifocal intraocular lens.
(※2) Short term visual outcomes of a new trifocal intraocular lens.
(※3) Comparative analysis of visual outcomes, reading skills, contrast sensitivity, and patient satisfaction with two models of trifocal diffractive intraocular lenses and an extended range of vision intraocular lens.
記事監修:「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
- 2003年:近畿大学医学部 卒、近畿大学医学部眼科学教室 入局
- 2009年:府中病院 眼科、近畿大学医学部大学院医学研究科 卒
- 2011年:Brien Holden Vision Institute Visiting Research Fellow
- 2012年:近畿大学医学部 助教
- 2014年:近畿大学医学部 医学部講師
- 2016年:医療法人翔洋会 理事長 平木眼科 院長
- 2018年:南大阪アイクリニック 院長
クリニック情報
- 所在地:大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 電話番号:072-453-1750
- 診療時間:9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日:木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器:フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など
記事監修
「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
略歴
2003年近畿大学医学部眼科学教室入局。府中病院(和泉市)勤務、オーストラリア留学を経て、2014年より近畿大学医学部講師として白内障・角膜外来を担当。2016年より現職。
渡邊医師YouTubeチャンネル:
クリニック情報
- 所在地大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 診療時間9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など