白内障手術で使用される眼内レンズは大きく分けて単焦点レンズと多焦点レンズ、それらに付加された乱視矯正レンズがあります。また、単焦点レンズといってもメーカーの違いによって10種類以上。多焦点レンズについても同様で、さらに、レンズの種類を選択したうえで、およそ50段階ある度数からそれぞれの眼に最適なものを眼の中に固定する必要があります。
眼内レンズの度数選択が白内障手術の成否を左右
遠く(5m以上)をよく見えるようにしたいのか、中間距離(1m-60cm)なのか、近距離(30cm-50cm)か、あるいは多焦点レンズのように遠くも近くもピントが合うようにするのか?
これらを手術前に決定しても、実際の手術において眼内レンズの度数選択を誤ってしまうと、ピントが合う位置がずれてしまう(術後屈折誤差)ため、手術前に思い描いていた見え方にならないということが起こります。
したがって、白内障手術の成功/不成功のカギは術後屈折誤差をいかに小さくするかにかかっているといってもよいほど重要なポイントになるのです。
リアルタイムに眼の情報を解析し最適な眼内レンズ度数を測定
これまでは手術前の検査で眼の長さと角膜の形状などを測定し、これらの情報をもとに使用する眼内レンズの度数を選択していました。そんな中登場したのが、術後屈折誤差を極限まで小さくすることのできる波面収差解析装置ORATM(Alcon)です。
ORATMとは、手術顕微鏡に接続された解析装置が数万件にも及ぶ様々な目の情報が蓄積されたサーバーに接続された状態で、白内障で濁った水晶体を取り出した後、リアルタイムに患者の眼の情報を解析し、使用される眼内レンズの最適なレンズ度数を測定してくれるという画期的な器械です。
ORATMの使用による術後屈折誤差の減少報告
Cionni RJらは30,000眼を超えるデータベースの情報を解析し、従来の眼軸長測定装置を用いた度数選択に比べて、有意に術後屈折誤差は減少していたと報告(※1)。Davidson JAらは有意の差は見られなかったが、術前検査で得られた推奨レンズ度数とORATMが術中に提示したレンズ度数が異なる場合にはORATMの結果が有効な可能性があったと報告しています(※2)。
また、Hill DCらは、元々近視を持っている眼に対しORATMを使用すると、有意に術後屈折誤差が少なかったと報告(※3)。Fram NRらは近視矯正手術後の白内障手術では、ORATMの使用により、やはり術後屈折誤差は減少したと報告しています(※4)。
また、乱視矯正レンズの使用時にも有効であるという報告もあり(※5)、これらの報告からは、術者のレンズ選択に有用な器械であると考えられます。
ORATMを多くの症例に使用している医師の見解
では実際にORATMを多くの症例に使用している医師はどう考えているのか。以下は「南大阪アイクリニック」の渡邊医師の見解です。
術後屈折誤差が許容範囲に入る割合は95%以上
ORATM導入前において、術後屈折誤差が許容範囲に入っていたのはおよそ70%程度でしたが、現在では95%を超えていますので、やはり非常に有用だと考えています。しかし、ORATMはこの器械から得られるデータのみでレンズ選択がされている訳ではなく、手術前に行う眼軸長測定装置のデータをデータベースに入力した上で計測する必要があります。言い換えれば、手術前検査が正確でなければORATMの提示する度数も正しくないものになるということです。
ですので、一般的にORATMが眼軸長測定装置と比較してよいのかどうかという議論がされていますが、厳密に考えると、他の器械との比較というのはあまり意味がないものだと考えています。
屈折誤差は手術後の視力に直結するため手間を惜しんではならない
この点をふまえ、当院では2種類の眼軸長測定装置を使用し、手術前検査で得られた2種のデータと、手術中に測定した2種のデータ、計4種のデータを手術中に比較してレンズ度数を選択しています。この作業は非常に煩雑で手間のかかることですが、屈折誤差は皆様の手術後の視力に直結することですので、100%を目指す努力はし続ける必要があると考えています。
現在は4種のデータからのレンズ選択は僕自身が手術中に様々なデータを比較して決定していますが、多様な眼のデータをいくつかのカテゴリーに分類し、「こういう眼の場合はこのデータを使うと良い」というパターンを見つけ出そうとしています。
参考文献・画像引用
(※1)Cionni RJ et al. J Cataract Refract Surg. 2018
(※2)Davidson JA, Potvin R. Clin ophthalmol. 2017
(※3)Hll DC et al. J Cataract Refract Surg. 2017
(※4)Fram NR et al. Ophthalmology. 2015
(※5)Epitropoulos AT. J ophthalmol. 2016
記事監修:「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
- 2003年:近畿大学医学部 卒、近畿大学医学部眼科学教室 入局
- 2009年:府中病院 眼科、近畿大学医学部大学院医学研究科 卒
- 2011年:Brien Holden Vision Institute Visiting Research Fellow
- 2012年:近畿大学医学部 助教
- 2014年:近畿大学医学部 医学部講師
- 2016年:医療法人翔洋会 理事長 平木眼科 院長
- 2018年:南大阪アイクリニック 院長
クリニック情報
- 所在地:大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 電話番号:072-453-1750
- 診療時間:9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日:木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器:フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など
記事監修
「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
略歴
2003年近畿大学医学部眼科学教室入局。府中病院(和泉市)勤務、オーストラリア留学を経て、2014年より近畿大学医学部講師として白内障・角膜外来を担当。2016年より現職。
渡邊医師YouTubeチャンネル:
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- 所在地大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 診療時間9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など