白内障手術では濁った水晶体を摘出し、代わりになる人工の眼内レンズを目の中に挿入する必要があります。眼内レンズには多くの種類がありますが、大きく分けると以下の4種類です。
- 単焦点レンズ
- 乱視矯正付き単焦点レンズ
- 多焦点レンズ
- 乱視矯正付き多焦点レンズ
眼内レンズの度数選択と検査
それぞれの眼内レンズには+6.0D~+30D(+0.5D刻み)の度数があり、目に合わせて度数を選択する必要があります。度数を選択する際に重要な検査が、光眼軸長測定装置、前眼部光干渉断層計、術中波面収差解析装置です。これらの結果を総合し、もっとも目に合っている度数を選択します。
単焦点レンズの度数選択・術後の見え方
単焦点レンズを選択する場合には、裸眼で見たい距離に焦点を合わせるように度数選択をします。
ここで重要になるのが、裸眼で見たい距離以外での視力です。焦点を合わせた距離については裸眼視力が十分に出ますが、それ以外の距離の視力を見ていくことで、ご自身の生活上どの場面で眼鏡が必要になるか想像しやすくなると思います。具体的にみていきましょう。
遠くの距離に焦点を合わせる場合
遠く(5メートル)の距離に焦点を合わせるように単焦点レンズの度数を決定した場合(緑線=0)、遠くの裸眼視力は1.0である一方、読書距離(40cm)はおよそ0.2まで低下してしまいます。50cmの距離でも視力は0.4にとどまりますので、食事をするときにもお箸の先がボヤけてみえてしまうかもしれません。
とにかく運転だけ眼鏡をかけずに出来ればあとはどうでもいい、という方以外には少し不便な合わせ方です。
中間の距離に焦点を合わせる場合
3~4メートルの距離に度数を合わせた場合(オレンジ=-0.25)、遠くの裸眼視力は0.9、40cmはおよそ0.3、50cmは0.5となりますので、若干遠方の視力は5メートルに合わせた場合よりも劣りますが、近くの視力は改善します。
近くの距離に焦点を合わせる場合
2メートルの距離に合わせた場合(茶=-0.5)は、遠くは0.8、40cmが0.3、50cmは0.6となります。この0.6という視力が重要です。遠くはやはり視力が落ちてしまいますが、運転免許は裸眼でとおる程度は維持されながら、新聞も読めるという方が半数くらい出てきます。
さらにもう少し近い距離(およそ1.5メートル)に合わせる(黄=-0.75)と、さらに50cmの視力は上がりますが、遠くの視力が0.6に低下してしまいます。
グラフにはありませんが、もともと近視の眼鏡をかけており、手術後も遠くは眼鏡、近くは裸眼で見えればよいという方の場合には30~40cmに焦点を合わせるという方法もあります。強度近視の方の場合には新聞や携帯が裸眼で読みやすくなりますので、生活が非常に楽になったとおっしゃる方も多いです。
多焦点レンズの種類・術後の見え方
では多焦点レンズはどうでしょうか?
どの多焦点レンズにおいても、共通して理解しておくデメリットがあります。それは、単焦点レンズに比べると少し鮮明さ(メリハリ)にかけること、ハローグレア・スターバーストといった光源をまぶしく感じる症状がでること、わずかではありますが多焦点レンズに適応できない人がいることには注意が必要です。
また焦点の合う距離以外は少し視力が下がりますので、近作業時の見える距離が生活に馴染む時間が必要です。
多焦点レンズを使用する白内障手術には、以下の2つの方法があります。
- 手術の技術料は医療保険で、眼内レンズ代を選定療養費として支払う
- 全て自費診療で支払う
今回は選定療養費で使用できる(厚生労働省が認可した)多焦点レンズで最近多く選ばれているものを取り上げたいと思います。
厚生労働省が認可している多焦点レンズの種類
現在発売されているいわゆる多焦点眼内レンズは、2焦点レンズであるActivefocus、焦点深度拡張型レンズであるSymfonyと、3焦点レンズのPanoptixがあります。
レンズによる大きな違いは近くの焦点が合う距離です。メーカーが発表している近焦点距離は、Activefocus、Symfonyの順に50cm、66cmで、Panoptixは3焦点レンズですので60cmと40cmです。
それぞれのレンズを挿入した手術後の視力と特徴を詳しく見て行きましょう。
2焦点レンズActivefocusを挿入した手術後の視力と特徴
Activefocus(紺)の遠くの視力の平均は1.0、50cmの視力は0.8ですので、単焦点レンズ(0, 緑)と比較して近くの視力が上昇しており、全距離で他の単焦点レンズよりも視力が良い結果です。運転のときに眼鏡が必要とお答えの方はいませんでした。
本・新聞・パソコン・スマホをする時に老眼鏡あるいは拡大鏡を使用するという人は1~2割程度ですが、針を通すといったさらに細かい作業をする際にはおよそ半数の方が拡大鏡を使用しています。また、本やスマホを見る際に30cmほどの距離だと見えにくいので、腕を軽く伸ばしてみる必要がありそうです。
このレンズの大きなメリットは、遠方の見え方が単焦点レンズに近い鮮明さを得られること、パソコンを見る距離の視力も比較的保たれること、ハローグレアが軽度であること、60才くらいまでの方は近くの視力が出やすいということです。しかしながら70歳以上になりますと逆に視力の出方に個人差が出てきますので、比較的年齢の若い方で、行動的な方向きのレンズと言えるかもしれません。
焦点深度拡張型レンズSymfonyを挿入した手術後の視力と特徴
Symfony(赤)はActivefocusとよく似た結果になっていますが、焦点距離が66cmですので、近くの作業は眼鏡なしでは難しく、パソコンまでの距離が良くみえると理解していただくとよいでしょう。
メリットとしては他の多焦点レンズに比べて視力上は差はありませんが、コントラスト(くっきりとした見え方)が優れており、全年齢を通じて視力が安定していることです。一方でスターバーストといわれる光がはじけるような見え方をする方が比較的多く、夜の運転や夜に行動することが多い方には向きません。
しかしながら、夜に出かけることはほとんどない方であれば、片方の目を遠く重視、もう片方を手元重視でレンズ度数を調整すると、両眼で見たときの見え方はとても良いので、生活スタイルに応じて選択されると良いでしょう。
3焦点レンズPanoptixを挿入した手術後の視力と特徴
Panoptix(紫)は遠くから近くまで年齢を問わず非常に良く見える方が多いレンズです。遠くも、近くの細かいことも眼鏡が必要とお答えになった方はほとんどおられません。特に、グラフにありますように40cmの平均視力は他と比較し有意に良く、手術を受けられた皆さんの満足度が非常に高いレンズです。
デメリットはハロー(写真3)が強いことです。単焦点レンズ(写真0)やActivefocus(写真1)と比較すると、光の周りにボヤっとしたリングがよりはっきりと認識されますので、ライトが大きく見え、夜間の運転時に遠近感が分かりにくいことには注意が必要です。「昼間や明るい場所で快適に過ごしたい」、「夜に車で遠出することはほとんどない」ということであればPanoptixはおすすめです。
現在の白内障手術は医師任せにするのではなく、ご自身のライフスタイルに合わせてさまざまな選択肢がありますので、医師と納得がいくまでご相談されると良いでしょう。
3焦点レンズPanoptixについて、当サイト監修「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師が解説しています。レンズ選びのお悩みの方、選び方について詳しく知りたいという方は、ぜひYoutube動画もご覧ください。
記事監修:「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
- 2003年:近畿大学医学部 卒、近畿大学医学部眼科学教室 入局
- 2009年:府中病院 眼科、近畿大学医学部大学院医学研究科 卒
- 2011年:Brien Holden Vision Institute Visiting Research Fellow
- 2012年:近畿大学医学部 助教
- 2014年:近畿大学医学部 医学部講師
- 2016年:医療法人翔洋会 理事長 平木眼科 院長
- 2018年:南大阪アイクリニック 院長
クリニック情報
- 所在地:大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 電話番号:072-453-1750
- 診療時間:9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日:木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器:フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など
記事監修
「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師
略歴
2003年近畿大学医学部眼科学教室入局。府中病院(和泉市)勤務、オーストラリア留学を経て、2014年より近畿大学医学部講師として白内障・角膜外来を担当。2016年より現職。
渡邊医師YouTubeチャンネル:
クリニック情報
- 所在地大阪府泉南郡熊取町大久保北3丁目174-6
- 診療時間9:30~12:30、14:30~17:30
- 休診日木曜午後、土曜午後、日曜
- 導入機器フェムトセカンドレーザー白内障手術装置、「LenSx」、術中波面収差解析装置「ORA System」、白内障手術ガイドシステム「Verion」、超音波白内障手術装置「CENTURION VISION SYSTEM」など