白内障手術とは
白内障手術は、「光がまぶしく感じる」「ものが二重に見える」など、見え方の違和感の原因となっている濁った水晶体を除去し、目の中に人工のレンズを挿入する手術です。薬で治すことはできないため、白内障が進行し日常生活に支障が出てくるようになると、手術が必要になってきます。
目の手術と聞くと、その痛みや危険性など不安はつきないと思いますが、白内障手術の所要時間は10~20分ほどと短時間で、ほとんど痛みもありません。
超音波手術・レーザー手術など具体的な手術方法や、眼内レンズの選択、日帰り手術の可否など、白内障手術に関わることについて見ていきましょう。
白内障手術の費用
濁った水晶体を除去し眼内レンズを挿入する白内障の手術には、複数の種類があります。
- レーザー白内障手術
- 超音波乳化吸引術(PEA+IOL)
- 水晶体嚢外摘出術(ECCE)
- 水晶体嚢内摘出術(ICCE)
白内障の手術費用は健康保険が適用されるか否か、そして術式・薬代によっても大きく変わります。健康保険が適用される場合は、年齢や収入により自己負担割合額が異なり、1割負担、2割負担、3割負担に分かれます。また、世帯収入・年齢によって限度額が設定されていますので、手術前に申請しておくと一定額以上の支払いは免除となります。
保険診療か自由診療か
白内障手術の費用は、保険診療で行う手術か自由診療で行う手術かで大きく異なります。保険が適用されるか否かは、眼内レンズの種類および手術方法に応じます。
眼内レンズには大きく2種類があり、単焦点レンズと多焦点レンズに分かれます。
一般的に単焦点レンズは保険診療で行い、多焦点眼内レンズを使用する場合には自由診療、または厚生労働省の認可する施設であれば先進医療(※2020年3月まで)によって行われます。
では、使用するレンズごとに詳細を見ていきましょう。
【保険診療】単焦点レンズでの日帰り白内障手術(超音波手術)費用目安
自己負担割合1割 | 片目1万5千円~2万円ほど |
自己負担割合2割 | 片目3万円~4万円ほど |
自己負担割合3割 | 片目4万5千円~6万円ほど |
基本的に、保険診療で行う手術は単焦点レンズ+超音波手術の組み合わせになります。手術費用は保険料負担額にもよりますが、片目1万5千円〜6万円くらいがおおむねの相場です。
単焦点レンズ+レーザー手術の場合は自由診療となることが一般的で、医療機関によっても費用は異なりますが、片目25万~35万円程度がおおむねの目安となります。
【自由診療】多焦点レンズでの日帰り白内障手術費用目安
超音波白内障手術 | 片目40万円~50万円ほど |
レーザー白内障手術 | 片目50万円~60万円ほど |
多焦点眼内レンズの場合は自由診療となり、保険は適用となりません。レンズの種類にもよりますが、片目40万円〜60万円ほどがおおむねの相場です。
先進医療「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」
先進医療とは、厚生労働省の認定を受けた医療機関が特定の医療領域にて行える治療を指すもので、多焦点レンズを使用する白内障手術もその対象となっています(多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術)。先進医療は保険診療と併用することが可能で、検査代や薬代は保険診療にて行われます。
加入している医療保険に先進医療特約が付いている場合は給付金が支給されるので、保険会社に確認しておきましょう。
(※2020年1月追記)多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は先進医療から外れ、保険診療+選定療養として行われることが決定しました。下記の記事を合わせてご確認ください。
入院の有無と日帰り手術
手術には入院手術と日帰り手術があります。どちらの場合も手術内容自体に変わりはありません。
血圧の厳重な管理が必要な方や、血糖コントロールがあまりよくない方など内科との連携が必要な場合には入院手術が必要ですが、特に身体に問題がなければ日帰り手術が可能です。詳しくは担当医に相談しましょう。
白内障手術の流れと特徴:検査~手術の所要時間・麻酔・痛み
一般的に手術3日前から、目の表面の細菌を減らすために抗菌薬の点眼を開始します。手術前日からは抗菌薬を内服する場合もあります。
医療機関によって異なる部分もありますが、手術当日の流れはおおむね以下のようになります。
- 血圧測定
- 散瞳薬や、抗菌薬を点眼
- 麻酔の目薬を点眼
- 手術
- 術後の点眼・飲み薬の説明
白内障手術の所要時間
白内障の手術時間自体は一般的に10~20分程度、手術室に入ってから出るまでは20~30分程度で終了する短時間のものです。手術終了後には、術後の説明を受け、そのまま帰宅することも可能です。
一例ですが、日帰り手術の場合では、手術前後の処置・注意点の説明等を含め、スムーズに行われれば来院からお帰りになるまでの所要時間は1時間30分ほどとなります。
白内障手術の麻酔方法
白内障手術にて使用する麻酔には、点眼麻薬と注射による麻酔があります。目の周りを消毒した後に目薬による点眼麻酔を行い、痛みがほとんどない状態で手術は進んでいきます。
また局所麻酔下で手術を行うので、意識がある状態で手術中に医師やスタッフと会話をすることもでき、周りの状況を音で確認することも可能です。
白内障手術の痛み
手術にともなう痛みに不安を感じることもあるかと思いますが、上述の通り、手術の際は麻酔の目薬を点眼するため痛みを感じることはほとんどありません。術後も同じく痛みはほとんどありませんが、必要であれば痛み止めの処方を受けることができるほか、自宅にある鎮痛剤を服用しても問題ありません。
手術を受けた方の感想の多くは、「手術前の消毒で少ししみた」や「術後のドレープ(術眼以外をおおう清潔な布)をはがすときに少し痛みがあった」程度です。
もちろん個人差はありますが、手術自体の痛みはほとんど感じないといっていいでしょう。
白内障手術の検査項目
白内障の手術前には、さまざまな検査結果をもとに、眼内レンズの種類や度数を決定します。これは、術後の見え方に大きくかかわる重要な検査です。
- 視力・眼圧検査
視力検査はどれくらい見えているかを測る検査です。裸眼視力と眼鏡などを用いた矯正視力を測定します。眼圧検査は目の硬さをはかる検査のことです。
- 眼底検査
眼底検査とは眼球の奥にある血管・網膜・視神経の状態を調べる検査です。
- 屈折検査
近視や遠視、乱視などの屈折異常の有無や程度を測定します。
- 角膜内皮細胞検査
角膜内皮細胞とは角膜の透明性を保つ重要な組織です。検査は主に角膜の病気や、白内障の手術前・手術後、コンタクトレンズを安全に使用する際の検査として行います。
- 角膜曲率半径
ひとそれぞれ異なる、目の大きさや目の表面の角膜の丸みを計測する検査です。
- 眼軸長検査
眼軸長とは、角膜表面から網膜中心部までの長さのことです。測定装置を用いて行いますが、測定誤差を生じると手術後の見え方が悪くなることがあり、最新のもので行われるのが好ましい検査です。
- 血圧検査・血液検査
手術が問題なく行えるか事前に血圧検査を行うほか、感染症を確認するための採血も実施されます。
最新機器により進化する白内障の手術
術後の見え方を左右する、非常に重要な項目である術前・術中検査ですが、近年では目覚ましい技術進化を遂げています。レンズを的確な位置に固定する精度の向上、最適なレンズ度数の選択などは、術後の満足度アップにも大きく貢献しています。
術中波面収差解析装置
術中波面収差解析装置は手術中に変化する屈折情報をリアルタイムで計測し、眼内レンズ度数の選択や術後の乱視度数予測を行います。その結果、手術後の見え方の誤差を極限まで抑えることが可能となります。
白内障手術ガイドシステム
白内障手術ガイドシステムは眼表面の情報を取得し、角膜の切開位置や前嚢の切開位置、そして眼内のレンズの固定位置や眼内レンズの乱視軸を、顕微鏡下とモニターにデジタルマーカーで表示。より正確で効果の高い施術ができるようサポートします。
白内障の手術の方法と手順
濁った水晶体を除去し眼内レンズを挿入する白内障の手術には、複数の種類があります。
- レーザー白内障手術
- 超音波乳化吸引術(PEA+IOL)
- 水晶体嚢外摘出術(ECCE)
- 水晶体嚢内摘出術(ICCE)
現在主流になっているのは「超音波乳化吸引術」そして「レーザー白内障手術」です。
レーザー白内障手術
レーザー白内障手術は最先端の手術方法です。
白内障の手術において重要な部分は、角膜切開、前嚢切開、水晶体の断片化という過程です。術後の目の見え方、予後にも影響をおよぼすものであるため、正確な施術が求められます。
レーザー手術機器「フェムトセカンドレーザー白内障手術装置」では、これまで手術を担当する医師がマニュアルにて操作していた角膜切開や前嚢切開、水晶体の断片化の工程をレーザーが行うことにより、より高い精度での安全な手術が可能になりました。
レーザー白内障手術のメリット
正確なコンピューター制御によって行われるレーザー手術には大きなメリットがあります。
- 切開やレンズ固定を高精度で行える
- 傷口が小さくなり、術後のリスクが軽減される
誤差が少ない術式であり、眼内に装着するレンズの位置や傾きのずれなどの問題も生じにくいため、術後の見え方の回復効果も極めて高くなっています。レーザーの照射時間は1分ほどと短く、身体への負担も少ないです。
レーザー白内障手術のデメリット
レーザー手術はメリットが大きい反面、健康保険が適用されないため、費用面が懸念されます。
なお、以前は多焦点レンズを挿入する白内障手術は先進医療の対象でしたが、2020年3月より除外され、保険診療+選定療養として行われることが決定しました。費用目安については、下記の記事を合わせてご確認ください。
超音波乳化吸引術(PEA+IOL)
超音波乳化吸引術(PEA+IOL)は、現在の白内障治療で一般的に用いられている術式で、超音波で水晶体を破砕し、その後吸い出す手術方法です。この手術は縫合の必要がなく、切開創も2~3mmと小さいです。特に問題がなければ、手術は10~20分程度で終了します。
超音波乳化吸引術のメリット
- 傷が小さい
- 比較的短時間で終わる
傷口が小さいことで手術後の回復も早く、術後の乱視や感染のリスクも低くなっています。また、単焦点レンズを超音波乳化吸引術で挿入する手術は保険診療で実施されることが一般的です。
超音波乳化吸引術のデメリット
超音波乳化吸引術は目への負担がレーザー手術と比べると大きいため、重症の白内障の場合や、眼内レンズを固定する嚢が弱い場合などには、レンズを挿入できないことがあります。その際には眼内レンズを縫い付けることになり、目への負担がかかります。
水晶体嚢外摘出術(ECCE)
水晶体嚢外摘出術(ECCE)は、水晶体の前部分である前嚢を切り取って核・皮質を破砕することなくそのまま除去する手術方法です。
現在ではほとんど行われていない手術方法であり、レーザー手術や超音波手術ができない場合に限り、わずかに行われています。切開創は120~140°程度と大きく、縫合が必要になる手術であり、目への負担は大きくなります。
水晶体嚢内摘出術(ICCE)
水晶体嚢内摘出術(ICCE)も、最近ではほぼ行われていない術式で、レーザー手術や超音波手術ができない場合に限られます。
水晶体の核だけを除去するECCEに対し、ICCEは水晶体の一部ではなく、嚢ごと除去します。眼球の半分ほどとなる160~180°の切開幅を要するため眼球への侵襲が大きく、眼内レンズはこの手術のみでは挿入できないため縫い付ける手術が必要となり、最近では特殊な症例にのみ使用されています。
白内障手術のリスク
医療技術の目覚ましい進歩もあり、安全かつ短時間で受けられる白内障の手術ですが、リスクがゼロというわけではありません。確かな技術と経験を備える、信頼できる医師による手術を受けること、受診した医療機関には最新の機器が導入されているかをチェックすることが望ましいです。
- 感染(眼内炎)
手術中あるいは術後、眼内に細菌が侵入して増殖し、強い炎症がまれに起こることがあります。特に手術の3日後~1週間後に起こることが多く、手術後に急激に視力が下がってきた、目やに・充血や痛みがひどいなどに気づいたら早めに医師に相談しましょう。
- 眼内レンズ挿入不可
進行した白内障やチン小帯が弱いなど、難易度が高いことが予想されるような手術の場合、1回の手術では眼内レンズを挿入できないことがあります。その場合には強膜内固定術(眼球の壁に直接レンズを固定する手術)を後日行う必要があります。
- 術後屈折誤差
術前に決めた眼内レンズのピントの位置がずれることを術後屈折誤差といいます。誤差が大きく見え方に影響がおよぶ場合、レンズの入れ替え手術などを行う必要があるため、質の高い手術前・手術中検査が必要不可欠です。
- 後発白内障
術後数ヶ月〜数年経つと眼内レンズを収めている水晶体嚢が濁り、白内障と同じような症状が出ることがあります。これを後発白内障といいます。かすみ・見えにくさが出てくれば専用のレーザーで濁りを飛ばせば手術直後の見え方に戻ります。
- 網膜剥離
発症率は低いですが、手術後に生じることのある合併症のひとつです。手術後に視野の一部が暗くなってきたなどの症状に気づいたら早めに医療機関を受診しましょう。
- 駆逐性出血
駆逐性出血とは合併症のひとつで、発症率は0.03〜0.06%と極めて低いですが、糖尿病やコントロール不良な高血圧がある方や、過去に眼手術の既往がある場合は発症率が高まります。
- 嚢胞様黄斑浮腫
嚢胞様黄斑浮腫とは手術後早期に現れる症状で、網膜のむくみ(腫れ)のことです。
- 眼内レンズの偏位・脱臼
白内障手術後、外傷などを契機として眼内レンズの偏位・脱臼がおきることがあります。
白内障手術後の見え方・視力の変化
白内障の手術後には、まぶしく感じるなどの症状が見られることがあります。顕著な違和感が続く場合は、医師に相談してください。
白内障手術後の気になる症状
- まぶしいと感じる
手術前には濁っていた水晶体が手術で濁りが取れ、大量の光を取り込めるようになるため、術後まぶしく感じることがあります。時間が経つと徐々に慣れてきます。
- 青みを帯びて見える
手術前は、加齢によって水晶体が黄色味を帯びており、青色をはじめ短波長の光を取り入れにくくなっています。手術により眼内レンズがこれらの光を取り入れられるようになるため、青みを帯びて見えることがあります。
- 黒いものが飛んで見える
手術直後は黒いものが飛んで見える「飛蚊症」が気になることがあります。ただしほとんどの場合は病気ではなく、加齢にともなう症状で、時間が経つにつれてあまり感じなくなります。
白内障を治療すると、目の中にある硝子体に生じた加齢による濁りを自覚しやすくなることが症状が現れる原因です。ただしまれにではありますが網膜剥離などが起こっていることもありますので、飛蚊症が気になる場合には医師に相談しましょう。
- 視野の周囲に幕があるように感じる
眼内レンズのふちが光に反射するため、眼内に入る光の方向によっては、視野の周囲に幕があるように感じることがあります。
白内障の手術後のメガネ着用
白内障手術前に使用していたメガネは、術後にはほとんどの場合で合わなくなります。
手術を受けた人によってもさまざまですが、裸眼視力が安定するまでには、術後1〜2ヶ月程度が必要です。新しい度数のメガネを作るのは、裸眼視力が安定した後とするのがよいでしょう。
正しい知識を得ることで白内障手術への不安をやわらげましょう
「手術」と聞くと不安になることもありますが、一般的に白内障の手術は短時間で終えることができ、痛みもほぼなく、その日のうちに自宅に帰ることが可能です。費用などについても事前に理解しておくと、安心して手術に臨めます。術後の処置や見え方についても、あらかじめ把握しておきましょう。不安な点は医師に積極的に相談してください。