黄斑前膜・黄斑変性の方の白内障手術について、当サイト監修・南大阪アイクリニック院長の渡邊敬三先生にお話しいただきました。Youtube「白内障ラボチャンネル」より、内容を抜粋しご紹介いたします。
黄斑前膜は珍しくない病気
皆さんこんにちは。白内障ラボチャンネルの渡邊です。今日はですね、黄斑前膜の方の白内障手術で使用する眼内レンズの選択についてお話をしたいと思います。
黄斑前膜って、ちょっと皆さん聞き慣れない病気かなぁと思うんですけども、実は結構いらっしゃるんですね。
まず黄斑て何か?って話なんですけども、目の模型を使ってお話しいたします。
網膜というのは、目の壁の内側に張り付いている薄い透明な膜で、光を感じ取るために非常に重要なものです。光が入ってきますと、その網膜の中心部分、これを黄斑と言いますけれども、明るい所では、主にこの黄斑というところで僕たちは物を見ています。
なので、黄斑に何か病気があると、視力がガタっと下がってしまう原因になるわけです。黄斑前膜っていうのは、この網膜の中心の黄斑という所の表面に薄い膜が張ってしまう病気をいいます。
黄斑前膜の症状
これによって黄斑前膜の症状っていうのは、物の見え方の大きさが変わります。なので、黄斑前膜がある方の目とない方の目では、物の大きさが違って見えるということが大きく症状として上がります。
もう一つは変視。これは物に歪みを感じるというもので、この2つの大きな症状があります。
黄斑前膜の手術と白内障の手術
黄斑前膜があった場合に、その症状が強くなってくると手術をするわけですけれども、ご年齢によっては、一緒に白内障の手術をしてしまいましょう、となる場合が結構あります。網膜が引っ張られている状況で、この引っ張りを取るという手術するんですけれども、ここで白内障の手術する時に注意点があるんですね。
一つは、網膜が引っ張られている状況で手術前検査をしますので、手術後の目はどうなるかというと、この引っ張りがなくなりますので、構造的にガラッと変わってしまうわけです。
なので黄斑前膜の方について、白内障の手術をすると想定したよりも近視化すると一般的には言われています。
手術後は遠くにピントを合わせましょうというお話であったにも関わらず、終わってみると「ちょっと近くにピントが合う」ということが起こりえますので、これには注意が必要です。
そういうことなので、例えば同時手術の方に多焦点レンズを入れるかと言われると、僕はやらないほうがいいと思います。
これは日本眼科学会においても、黄斑前膜の方の白内障の手術に多焦点レンズは使わない方が良いという提言もあります。
近視化する可能性があるので、それを予測して入れるということは出来なくはないんですけども、出来ればやらないほうがいい。単焦点レンズの方がいい。
もう一つ、黄斑前膜の手術を受ける方には皆さんにお話しすることなんですけれども、黄斑前膜の手術を受けるのは、かなり症状がきつくなってからでないといけないと僕自身は思っています。
というのも、構造的に黄斑の前に膜が張っていて、黄斑が引っ張られているのを戻す。膜を剥いで元に戻すという、構造的に元の形に戻せても、先ほどお話した物の大きさの違い、それから変視、物のゆがみですね。これは改善こそすれ、治ることはないと思っていただいた方がいいと思うんです。
歪みも全くありませんし、物の大きさも左右の目で全く一緒に見えますっていう人は、僕はほとんど見ないです。
なので、手術後も多少ゆがみが残ってしまう。もちろん手術前よりは良くなるんですけど、完全に歪みのない状態に戻ることはあんまりないので、そういう状態で多焦点レンズを入れるという事は、あんまり意味がないんじゃないかなと思います。
網膜前膜、黄斑前膜の方の白内障の手術の時には、同時手術の場合には多焦点レンズは入れないという事と、ちょっと近視化する可能性があるという事を念頭においていただいて、手術を受けられると良いかなと思います。
水晶体を温存した網膜前膜の手術
一方で水晶体を温存した網膜前膜の手術。この場合、まず膜をとってしまいます。そうすると、しばらくするとほぼ皆さん白内障になります。
なので白内障の手術を受けられるわけですけれども、ここでですね、手術後、少なくとも半年から1年くらいは空けた方がいいと思うんですけれど、その段階で構造的にもそれから症状的にもほぼほぼ何も問題ないという事であれば、多焦点レンズを入れる手術を行っても良いかなと思います。
ただ、構造的に元通りっていうことはほとんどないと思います。網膜前膜の方については、多焦点レンズはあまり選択肢に上げない方が良いかなと思っています。
もう一つ、乱視矯正レンズについては全然使用していいと思います。
黄斑前膜のある方の白内障手術というのは、同時手術についても、別々に手術する場合についても、多焦点レンズっていうのは選択肢に上げない方がいいのかなと思います。
黄斑変性の白内障手術
続いて、黄斑変性のある方の白内障手術の眼内レンズ選択ということでお話をしたいと思います。
黄斑変性の症状としては、少し歪みが出たりすることがありますし、進んでくると真ん中が暗く見えにくくなってくるという特徴があります 。
緑内障の方とか黄斑前膜の方の白内障の手術の話を前にしたんですけども、この黄斑変性の方についても、多焦点レンズの選択っていう選択肢は無い、僕はこれはもう絶対ないと思っています。
コントラストがそもそもちょっと悪くなってきますので、多焦点レンズを入れると、単焦点レンズに比べるとコントラスト感度が悪くなるのは分かりきっていますので、もう単焦点レンズです。
あとは老眼鏡を使うとか、近視用の眼鏡を使うとかで対応して頂くというのが原則中の原則であり、ここはしっかり守らないといけないと僕は思います。黄斑の病気がある方は、もう「多焦点レンズを使わないほうが良い」と考えていただく方が良いと思います。
黄斑変性症の進行
黄斑変性症っていうのも段階があって、黄斑変性症の一歩手前の状態から、黄斑変性症の初期、中期、それから進行期とありますけども、この黄斑変性になる一歩手前ですね。
この段階の方についても、多焦点レンズは使わない方が良い。この後、黄斑変性になっていく可能性があるという所見のある方については、入れないほうが良いです。
むしろそういう方については、例えばブルーライトフィルターをカットされたような単焦点レンズの方が、黄斑変性の進行予防ということについては良いと言われているものもありますのでそういった特徴を持った単焦点レンズを選ばれるというのも良いのかなと思うんですね。
なので、この黄斑変性の話というのは、それ以上何もないんですけども、黄斑疾患のある方は多焦点レンズを選ばない。もうそれだけです。これはもうできれば守っていただきたいなと思います。
本日もご視聴いただきありがとうございました。