緑内障の方の眼内レンズ選びのポイントについて、当サイト監修・南大阪アイクリニック院長の渡邊敬三先生にお話しいただきました。Youtube「白内障ラボチャンネル」より、内容を抜粋しご紹介いたします。
レンズの種類と違い
皆さんこんにちは。白内障ラボチャンネルの渡邊です。今日はですね、緑内障の方が白内障の手術を受ける時のレンズ選びという事でお話を進めたいと思っています
レンズ選びと言いますと、今まで色んなレンズのことをご紹介してきましたけれども、普通の単焦点レンズ、多焦点レンズ、乱視矯正レンズと、大きく言うと3つですね。
乱視矯正レンズっていうのは単焦点レンズとか焦点レンズに付加されたものですので、ただ単純な乱視矯正レンズという物ではないんですけども、大きく分けて3つあります。
まずはそのレンズを選ぶ中で、単焦点レンズと多焦点レンズの違いという事を、まず明確にしておく必要があります。
多焦点レンズというのは、見え方が特徴的な部分があります。クセがあると言ってもいいと思うんですけども、まとめてお話をすると、多焦点レンズは単焦点レンズよりもコントラスト感度というのがちょっと悪いという事。
特に明るい所は良いけれども、暗い所に行くと近くがちょっと見えにくい、という性質を持ったレンズが、多焦点レンズには大きいという事です。
もう一つはレンズの固定ですね。目の中に入れるレンズの固定がしっかりとできるかどうか、これについては多焦点レンズというよりも乱視矯正レンズが関わる事ではあります。
もう一つはハローグレアと言ったような、夜に光を見ると、それがちょっと滲んでぼやけて見えるというものが多焦点レンズには見られると。
もちろんですね、多焦点レンズだから全部そうだというわけではなくて、コントラストとか瞳孔の大きさに依存しない、明るい所でも暗い所でも見える、ハローグレアも少ないというようなレンズも出てきていますので、一緒くたに考えることは出来ないんですけども、大きく分けると、単焦点レンズと多焦点レンズの違いとして、そういった特徴があります。
緑内障の方には「多焦点レンズを入れない」が大前提
基本的には、緑内障の方には多焦点レンズは入れてはいけないと言われています。
特に選定療養というもので手術を行う場合には、緑内障とか黄斑の病気ですね、網膜の中心部分、黄斑の病気がある方には、多焦点レンズは入れないという事が大前提として書かれていますので、そこはまず一つ注意して頂きたいことだと思います。
本当に多焦点レンズを入れてはいけないのか?
ただですね、本当に入れたら駄目なのか。理論的に明確にした方が良いですね。例えば自由診療で手術を受けられる場合に、「わたし緑内障あるけれども、多焦点レンズ使えないんですか?」と聞かれると、そうではないと僕は思っています。
これはかなり議論が分かれている事ではありますので、あくまでも僕の考えという事です。「僕がそう言ってたからこうだ」とは誤解して頂きたくない。それぞれ皆さんが受診なさるクリニックの先生と十分にご相談のうえで、レンズ選択をしていただければ良いかと思います。
ここからのお話はあくまでも僕の見解ということで聞いて頂ければ良いかなと思います。
ごく初期の緑内障の場合
まずは緑内障と言ってもですね、前視野緑内障と言って、視野狭窄(※緑内障や網膜剝離などで見られる、視野が狭くなる症状)の見られない、ごくごく初期の緑内障。これは検査の発展とともにわかってきたわけですけども、視野検査をしても異常が出ないけれど明らかに緑内障性の視神経障害があるだろうというもの。これはそもそも構造的な変化だけで、見え方には全く関係してきていません。
そういうごく初期の緑内障で、視野狭窄の進行、視神経障害の進行が、白内障の手術前に基本的には見られていないようなコントロール良好な状況、これについてはですね、別に多焦点レンズを入れても問題ないだろうと僕は思っています。
視野狭窄と眼内レンズ
では視野狭窄が見られている場合、なんで多焦点レンズを入れてはいけないのか? これはやっぱりですね、視野というのは、中心部分は明るい所で使います。暗いところでは、もちろん中心部分も使えますけれども、視野の周辺部というのも重要になってきます。
そこに来て、多焦点レンズは夜の見え方がちょっと悪いという事もありますので、「視野狭窄が入ってきている方の夜の見え方が多焦点レンズを入れるとより悪くなる」という可能性を考えなきゃいけない。これは、単焦点レンズを入れるよりも悪くなるということです。
なので、基本的には視野狭窄がある程度進んできている方については、単焦点レンズを入れるということが大原則になるのかなと思います。
さらに進行した緑内障の方、例えば上半分下半分の真ん中あたりが見えにくい、こういう方についても、できれば単焦点レンズを選んで頂ければいいのかな、と思います。
コントロールの難しいタイプの緑内障
もう一つですね、たとえ視野狭窄がわずかでも、あるいはほとんど見られなくても、落屑緑内障と言われるような、ちょっと緑内障のタイプとしてコントロールの難しい緑内障というのがあります。
こういう方の場合、多焦点レンズを選ぶのは間違いであると、これははっきりともう間違いであると思います。コントロールがどうかな?と心配がある緑内障の方については、今後白内障の手術をしても進んできてしまうような可能性がありますので、多焦点レンズは絶対使わない方が良いと僕は思っています。
白内障と緑内障の手術を一緒にする時
白内障の手術の時に緑内障の手術を一緒にする、これはどういうことかと言うと、緑内障っていうのは単純に言うと、目の中に水が少し溜まりやすい状況。
水が目の外に向けにくい状況になると思っていただくといいんですけれども、その水の出口の所に機械を入れて少し水の抜けを良くしてあげるという手術があります。
そういうのを一緒に行って、白内障の手術の後は、緑内障のコントロールを良くしようという試みがあるんですけれども、それはある程度有効ではあります。
ただですね、それをやれば緑内障が進まないかというとそうではなくて、結局のところ、例えば白内障の手術を受ける前は緑内障の目薬を3種類使っていたけれども、手術後には1種類、あるいは2種類ですむようになったというように、少しコントロールがしやすい状況には確かになります。
ただし、緑内障が進行しないかどうかという事については、やはりそこまでの手術も合わせてやらなければいけない方ですので、多焦点レンズは入れない方がいいだろうと僕自身は思っています。
レンズの固定が悪いと誤差が出る
先ほどお話ししました落屑緑内障の方っていうのは特に、目の中に人工のレンズを入れるんですけれども、その人工のレンズを入れるために残しておく袋、水晶体の袋ですね。これの固定が、落屑緑内障ではない方に比べると、固定が非常に悪いという事がわかっています。
ですので、例えば多焦点レンズを入れても、固定が悪いと誤差がでる。結局メガネが必要になるという可能性もあります。
乱視矯正レンズについても、固定が悪いと「この角度で固定しなきゃいけない」という乱視矯正レンズが動いてしまう原因になりますので、これも結局のところほとんど意味がない可能性があります。
そういう目の構造的にレンズの固定が悪い可能性のある方については、多焦点レンズや乱視矯正レンズというのは、あまり使わない方がいいだろうなと思っています。
ということで、今回は緑内障の方の白内障手術のレンズ選択ということでお話をしました。ご視聴いただきありがとうございました