白内障の手術は、厚生労働省が承認する「先進医療」のひとつに数えられます。自由診療による高度な医療技術と、従来の健康保険診療を同時に受けられる制度で、多焦点レンズの挿入手術がその対象となっています。先進医療の内容や費用の目安、受けるためにはどのような条件があるのかを見ていきましょう。
先進医療とは
最新の研究が実績を積んで確立されると、先進医療として厚生労働省に認可されます。先進医療の費用はすべて自由診療となりますが、診察料、検査料、投薬料などは健康保険が適用されます。
もともと日本では自由診療と健康保険診療の併用は認められていませんでしたが、1984年に「特定療養費制度」が制定され、国の承認を受けた特定承認保健医療機関において、高度先進医療および先進医療が健康保険診療と併用できるようになり、2006年の健康保険法改正で統合されて現在の先進医療になりました。
先進医療は2019年10月現在、87項目の医療技術が承認されています。その中でも「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術(多焦点レンズを使用した白内障手術)」は、2017年7月からの1年間で、約156億円(約2.4万件)と、先進医療の総額(約240億円)の半分以上を占めています。
先進医療の対象となる白内障手術
先進医療による白内障手術を受けるには、いくつかの条件があります。
まずは、国からの認定を受けた医療機関(※厚生労働省「先進医療を実施している医療機関の一覧」)で行うこと。また「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」であること。さらに、使用するレンズの種類やメーカーによっても、先進医療の対象になるものとならないものがあります。以下の項目で詳しい条件を見ていきましょう。
先進医療適用の眼内レンズ
白内障手術に用いられるレンズには多種多様な種類があり、中には個人輸入で使用可能となる外国製のレンズもあります。しかし、先進医療の対象となるレンズは、日本国内承認の多焦点レンズのみです。
レンズの選び方のポイントは、近方焦点距離(近くでピントが合う距離)です。遠方視力(3メートル以上の距離で見える視力)はどのレンズを選んでもおおむね良好ですが、近距離の見え方はそれぞれのレンズによって異なります。先進医療の対象レンズの中から、普段どのような生活を送っているかを考慮し、医師とよく相談したうえで比較検討するようにしましょう。
先進医療の対象となる手術方法
先進医療で行われる多焦点眼内レンズを用いた白内障手術については、手術方法についての取り決めはありません。言い換えれば、超音波手術あるいはレーザー手術で行われるかは医療機関によって異なります。費用についても医療機関によって異なります。医療機関を変えると、超音波手術とレーザー手術が同額となることもあります。
先進医療を用いて白内障手術を受けられる際には、手術方法についての確認をされるとよいでしょう。
先進医療適用手術の費用目安
先進医療が適用される白内障手術の場合、費用はどのくらい必要になるのでしょうか。
先進医療の認可を受けた医療施設であれば、先進医療に関する技術料および手術料は自己負担となりますが、診察や検査料金、薬代などは健康保険の適用となります。そのため、自由診療よりも費用を抑えられるメリットがあります。
しかし、まったく同じ診療内容であっても、国の認可を受けていない医療施設で手術を受けた場合は自由診療となり、全額自己負担になります。先進医療による診療を希望する方は、まずは手術を受ける予定の医療機関が国の認可を受けているのか否か、確認してみましょう。
医療保険の先進医療特約
民間の医療保険に加入している方で、契約内容に先進医療特約が付帯する場合は、先進医療に関わる費用が全額給付されることがあります。お手元の契約書をよく読み、契約期間やその他特定の条件の有無を含めて、しっかりと確認しましょう。
なお、保険会社への給付金を申請する際は、医師の診断書が必要になります。
多焦点眼内レンズ手術は先進医療から外れるのか?
先進医療に定められている診療項目は、公的医療保険の対象にするかどうか、評価の段階にあります。そのため、安全性や有効性が確認されたものが新たに追加されたり、実施件数が少ない場合は取り下げられるなど、見直しが常に行われています。
現在は2020年の診療報酬改定後に、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」がどう動くかが注目されています。手術件数は全項目の中で圧倒的に多いのですが、そのぶん保険財源を圧迫する要因にもなっているからです。さらには生命に直結しない医療であるとも考えられるため、「先進医療から除外されて自由診療に移行するのではないか」という予想が大勢を占めています。
また、「レーザー白内障手術が先進医療に適用されるのでは?」「多焦点レンズ代が差額ベッド代(選定療養費)と同じ扱いとなり、白内障手術代+多焦点レンズ代となる可能性があるのでは?」という予想もあります。
(※2019年12月追記)多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、先進医療から外れ、保険診療+選定療養として行われることが決定しました。下記の記事を合わせてご確認ください。
自己負担額を軽減しながら高度な治療を受けられる
聞きなれない言葉でもある先進医療は、より高度な医療技術は自由診療、基本的な診療は健康保険適用となっており、少しでも自己負担額を軽減したい人にはありがたい救済措置のひとつです。ただし特定の医療機関でしか受けられないため、手術を受ける医療機関探しの段階から、仕組みを理解しておく必要があります。2020年以降に取り消しになる可能性もありますので、現在気になる症状がある方は、早めに診察だけでも受けてみてはいかがでしょうか。