白内障手術における屈折精度の現状について、当サイト監修・南大阪アイクリニック院長の渡邊敬三先生にお話しいただきました。Youtube「白内障ラボチャンネル」より、内容を抜粋しご紹介いたします。
皆さんこんにちは。白内障ラボチャンネルの渡邊です。先日は屈折誤差についてのお話を聞いていただきました。
屈折誤差は実際にどれくらい出ているのか
で、実際に手術を受けられた皆さんに、屈折誤差ってどれくらい出てるのか?ということです。前々から僕は「70%」ってよく言うんですね。10人に3人はズレるんですよってお話をしているんですけれども、それは世界的に見て実際にどうなのか?
うちのいまの現状で言うと、90%から95%ぐらいの方が、屈折誤差なく手術をしているという現状ですので、それと比較していただくといいのかなと思います。
これからですね、またちょこちょこやっていきたいと思っているんですけど、やっぱりなんぼですね、僕が口で喋ってこうですこうですって言ったところで、ほんまにそれが正しい情報なのかというのは分からない。皆さんにとっては分からない部分があるかと思いますので、時々はですね、査読のある雑誌の中から、これは面白いと思う論文を、皆さんにわかりやすく解説をしていけたらいいなと思っています。
KierenDarcy先生の報告
その一発目なんですけども、イギリスです。イギリスにあるブリストル眼科病院というところに、KierenDarcyという先生がいらっしゃいます。この先生が2019年にまとめた論文を、ちょっとご紹介したいと思います。
一般的にですね、日本人は器用なので、手術は確かに日本人のほうが上手いかもしれません。ただし、眼科の現状でいうと、例えば眼内レンズとか手術で使う機械とか、こうしたものは全部アメリカとかヨーロッパで作られていて、日本はかなり置いていかれています。
しかし、例えばTOMEY(トーメー)という会社があります。この会社すごく良い機械を作ります。なので、日本の中にもそうやって頑張っているメーカーさんもいらっしゃるんですけども、現状としては特にヨーロッパがすごく進んでいますので、ヨーロッパの値というのはだいたいそのまま日本に持ってこれるところもあると思います。
「日本はもっと良いんじゃないか」という欲目をもって見ないでいただけたらいいかなと思っています。
誤差を起こさずに手術が終わったものがどれぐらいあるか
このKierenDarcy先生がまとめた報告ですが、眼内レンズというのはそもそも度数がたくさんあります。この度数を選択するための計算式、目の情報を測って、その上で計算式というところに皆さんの目の情報を当てはめた上で、人工のレンズの度数を決めます。
この計算式というのも、どんどんいい計算式が出てきていてですね、5年10年単位で新たな計算式が出てくるわけですけども、現在使用されている10種類ぐらいの計算式を使って予測した屈折値、眼内レンズ度数が手術後に誤差を起こさずに正確性を持って、手術が終わったものがどれぐらいあるかというのを、このKierenDarcy先生が論文にしています。
どの計算式を使っても7割前後
結果なんですけども、1万例以上。
これすごいです、1万例以上の結果をまとめると、その屈折誤差というのが±0.5。等価球面値というので±0.5以内に入ったのは、どの計算式を使っても7割前後であったと報告をしています。
で、ここやっぱり大事です。7割って言ってますけども、施設によって違いがありますし、一概に「7割です」というわけにはいかないんですけれども、1万例の方を集めた結果が7割ということは、概ねそういうことだと思って頂くといいと思います。
Lundstrom先生の報告
もう一つ論文があります。これはスウェーデンの大学の方ですけども、Lundstromさんという方がいらっしゃいます。この方が2018年に発表された論文です。
これはまた規模がすごく大きいんですけれども、ヨーロッパですね。スウェーデン、オランダ、アイルランド、イギリス、ベルギー。それらの国での100以上の医療機関からデータを集約して、合計28万例。すごくないですか? 28万例集めたデータを解析しています。
「本当の」意味での屈折誤差のない目
この論文の面白い点というのは、屈折誤差には乱視度数というのも減らしておかないといけない、その辺も正確性には大事ですよという話なんですけど、この等価球面値というので僕らは一般的に屈折誤差を見るんですけれども、それに加えて乱視の度数が-1よりも小さい。これを手術の本当の意味での屈折誤差のない目と考える必要があります。
この方はそのデータを出しています。ちょっと話がややこしいんですけれども、球面レンズの度数が±0.5D(ジオプター)以内で、かつ円柱レンズの度数が-1 D(ジオプター)以内の症例がおよそ60%弱であったと報告をしています。
「本当の」意味で視力が出る症例はおよそ50~60%
つまり、先ほどの論文の結果では7割となってますけども、実のところ、そこは円柱レンズというものを使わないといけないような、乱視が残った症例というものも入ってしまっていて、実は裸眼視力でいうと、本当の意味で視力が出る症例というのは、およそ50%から60%になっているんじゃないかという報告なんです。
医療機関によって精度は40%から90%までバラバラ
さらに面白いのが、その100以上の医療機関それぞれのデータを見てみると、医療機関によって精度がかなり違う。これが40%から90%までバラバラだったと報告しています。
これはどういうことか? つまり、屈折精度を上げる取り組みをせずに手術しているところでは、結果が非常に悪く出る。7割って言ってますけど、実のところは4割ぐらいの施設もある。医療機関によって、手術後の結果というのはかなり違ってくるということです。
これはヨーロッパだけではなくて日本でも同様のことが言えると。まさに僕はずっとこの白内障ラボチャンネルで言いたかったことは、この論文に書かれていることなんですね。
医療機関によって精度がまちまちがあるということを書いているという事、そしてその精度が低下する要因は一体何か?ということも書かれています。
精度が低下する要因
一つは、手術中に合併症を生じると、精度が落ちると言われています。それは僕は当たり前のことだと思います。なので、合併症を起こさない、安全な手術を行うということも非常に大事なことだと思います。
もう一つ、緑内障とか、もともと弱視、もともと眼鏡を使っても視力が出ない目。あるいは瞳孔を開く目薬をして手術をするんですけれども、この瞳孔の開きが悪い目というのは屈折精度が悪くなる、ということが言われています。
もう一つは、手術前の視力が0.3よりも下がってしまうと精度が落ちると書かれています。
この中には大事な要素がすごく含まれているんですけれども、例えば手術前の視力が0.3以下になってしまうと、手術前検査の精度が下がってしまう。ゆえに手術の精度が下がるということが一つ大きな要因として考えられます。
例えば手術前の検査をウチでは4種類、5種類いまやっていますけれどもこれを単純に1種類だけにしてしまう。それだけで手術をしてしまうと、精度はガクッと下がりますし、2種類3種類4種類とやっていくと、たとえ視力が下がっていても正確な検査、再現性のある検査をピックアップすることができますので、良い手術ができるということが言えると思います。
そこの取り組みというのが非常に大事だなということもわかります。
等価球面値に照らし合わせると
一方でです。先ほどお話ししました、球面レンズが±0.5D以内で、円柱レンズの度数が-1 D以内のパーセンテージが6割弱だとお話ししたんですけども、実はじゃあ球面レンズが-0.5で円柱レンズが-1だった場合、等価球面値というのに照らし合わせると、-1ということになってしまう。
その目は、実は1メートルのところに一番ピントが合う目になっています。本当はもっと遠くに合わせているのに、-1になってしまうと眼鏡がなかったら全然見えませんので、この論文でちょっと惜しいなぁと思うのは、球面レンズが±0.5D以内、かつ円柱レンズが-1D以内、かつ等価球面地±0.5D以内。ここまでの症例数を出してもらえると、もっと正確な、より良い手術が受けられている方がどれぐらいいるかというのが分かってくると思います。
正確な手術をしている医療機関を皆さんの手で探し当ててほしい
話が非常にややこしいので、ぜひ何回か見て、ご理解を進めていただけるといいかなと思うんですけど、いまご紹介させて頂いた論文は、皆さんが医療機関を選んでいただく、その医療機関は、皆さんの手術後の目の見え方にかなり影響が出てくる非常に大事なもので、医療機関ごとにかなり手術後の成績に差があるということです。
なので僕がこの白内障ラボチャンネルをやっている理由というのは、まさにそういう正確な手術をしている医療機関を、皆さんの手で探し当ててほしいという思いでやっています。
ということで本日は長くなりましたけれども、屈折精度は現状、世界中でどれぐらいの精度で行われているかというお話を聞いていただきました。ご清聴いただきありがとうございました。