目の病気にはさまざまなものがあります。例えば白内障と緑内障、ともに色に関係する字が使われていますが、これらは原因も症状もまったく異なる病気です。白内障とほかの目の病気との違いについて、解説していきましょう。
白内障とそのほかの目の病気の違い
白内障は、目の水晶体という部分が白く濁る病気です。水晶体はカメラでいうとレンズに相当する役割を担っており、この水晶体の濁りによってものがかすんで見えたり、ぼやけて見えたりします。初期ではこれといった症状は見られませんが、進行につれてさまざまな症状が現れます。
- 視界がかすんで見える
- ものが二重・三重に見える
- 光がまぶしく感じる
- 視力の低下・眼鏡が合わなくなる
白内障の最も多い発症原因は加齢によるものです。加齢による白内障は老人性白内障と呼ばれ、80代ではほとんどすべての人が発症しているともいわれています。
白内障のほかにも、多くの目の病気があります。白内障とほかの目の病気との違いについて見ていきましょう。
緑内障との違い
白内障のほかに、目の代表的な病気として挙げられるのが緑内障です。名前は似ていますが、白内障とはまったく異なる病気です。
白内障は水晶体が濁り視力が低下するなどの症状が現れますが、すでに治療方法は確立されており、手術で治すことが可能です。一方で緑内障とは、視神経が圧迫されて視野が狭くなったり、部分的に欠けてしまったりする病気です。自覚症状がない場合が多く、診断された時にはすでに進行している状態であることも少なくありません。
進行にともなって視野は徐々に欠けていき、失明に至ることもあります。日本における失明原因の第1位が緑内障で、40代以上ではおよそ5%の人がかかる病気とされています。なお、一度失ってしまった視野は回復することはありません。
緑内障の症状・原因
緑内障は、次のふたつに分類されます。
- 慢性緑内障
- 急性緑内障
慢性緑内障は進行が穏やかな緑内障です。典型的な症状は視野の欠損ですが、自覚症状がないため、気づいたときにはかなり進行していたということも少なくありません。片方の目の視野が狭まっても、もう一方の目が視野をカバーするようできているので、なかなか異常に気付けないのです。
一方、急性緑内障は急激に眼圧が上昇して発症する緑内障です。発症すると、頭痛や吐き気など激しい症状が現れます。
緑内障は、眼圧が上昇することによって起こる視神経の障害であるといわれています。しかし、眼圧が正常でも緑内障に罹患するケースも多く見られており、必ずしも眼圧の上昇だけが緑内障の原因とはいえません。
緑内障の治療
緑内障の治療で重要なことは、早期発見・早期治療です。一度失ってしまった視野を回復させる手段はありませんが、進行を食い止めたり遅らせたりすることは治療によって可能です。視神経の障害ができるだけ軽微なうちに治療を開始するようにしましょう。
- 薬物療法
進行具合や症状に応じた点眼薬を用いて眼圧を下降させることが目的です。
- レーザー治療
点眼薬を用いても眼圧が下がらず、治療効果が不十分な場合に行われます。目の「虹彩」という部分にレーザーで穴を開ける、広げるなどして目の中を循環する液体である房水の流れをよくし、眼圧を下降させます。なお、レーザー治療で痛みを感じることはそれほどありません。
- 手術
治療効果が不十分な場合には、手術が行われることもあります。線維柱帯と呼ばれる組織を切開して房水の流れをよくするなどして眼圧を下げる手術で、こちらも病状の進行を抑えることを目的としています。
ドライアイとの違い
ドライアイは、涙の量が減少したり、涙の質が変化したりすることにより、目の表面に潤いが行きわたらなくなる状態のことをいいます。こちらも水晶体に濁りが生じる白内障とは異なるものです。
涙の分泌量が減る高齢者や、コンタクトレンズを装用している方、エアコンが効いた乾燥する室内でパソコンやスマートフォンを長期間使用するオフィスワーカーなどが、ドライアイになりやすいとされています。ドライアイを訴える方は年々増加しており、日本では約800~2,200万もの人がドライアイであるともいわれています。ドライアイが悪化すれば、かすみや光のまぶしさ、疲労感が出現しますので、症状としては白内障と似ている場合があります。
ドライアイの症状・原因
- 目の乾き
まばたきの回数が減り、涙の量が少なくなると起こります。パソコンやゲームなどをしているときに感じやすい症状です。乾燥した目を放置すると、目の表面や角膜に傷がつく可能性がありますので、こまめに休憩をとりましょう。
- 目の疲労を感じる
目に負担をかけ過ぎると、目の中の細胞や筋肉が疲れてしまい目の疲労を感じるようになります。長時間パソコンのディスプレイを凝視する際は、姿勢などにも注意し、目の疲れにくい環境を作りましょう。
- 視界がかすむ
目の乾きや疲れ目のほか、視力に問題がなくても視界がかすむ症状が見られることもあります。涙が不安定になり視機能が低下することによって起こります。
- 目がごろごろする不快感がある
目がごろごろするなどの不快感は、涙の量が減ったり涙の質が低下したりしているサインです。
ドライアイの治療
ドライアイの治療には水分の補充と、原因となる要素の除去があります。
水分の補充には、点眼治療が効果的です。以前は人口涙液やヒアルロン酸製剤など、外から水分を補う点眼薬が一般的でしたが、いまでは目の中から水分などを出させる作用がある点眼薬が主流となっています。点眼薬での治療では足りない重症のドライアイには、自分の血液から作られる血清点眼や、涙の排出口(涙点)をふさぐ涙点プラグを装着するなどの治療方法もあります。
加湿器の使用や、コンタクトレンズの装用頻度を減らすなど、ドライアイの原因となる生活環境の改善も大切です。
飛蚊症との違い
飛蚊症(ひぶんしょう)とは、視界に黒いごみや虫のようなものが飛んでいるように見える症状です。
黒い異物の形や大きさはさまざまですが、視線を動かすと追いかけてくるような動きをし、かつ細かく揺れるため、名前の通り目の前を蚊が飛んでいるかのように感じます。普段は気づかなくても、白いものや空を見たときに意識することが多いといわれています。発症する年齢はさまざまで、20代から症状を自覚する人もいます。
白内障の手術後に見られることもありますが、ほとんどの場合は時間の経過に応じて感じなくなってきます。
飛蚊症の症状・原因
代表的な症状は、黒い虫のような異物が飛んでいるように見えることです。飛蚊症の原因は、特に治療を要さない生理的なものと、目の病気に起因するものに分類されます。
- 生理的飛蚊症
- 病的飛蚊症
生理的飛蚊症とは、眼球内にある硝子体が加齢とともに濁り、その濁りの影が黒い異物として認識されることです。濁りがゼリー状の硝子体の中をゆらゆらと漂うため、蚊のように見える症状として現れますが、これは病気ではありません。
病的飛蚊症は、網膜裂孔・網膜剥離・ぶどう膜炎など、ほかの目の病気の症状のひとつとして現れるものです。痛みをともなうことはありませんが、適切な治療を行わないと視力の低下につながる可能性があります。また、硝子体から出血が起きている場合にも、飛蚊症の症状が見られることがあります。
飛蚊症の治療
飛蚊症の治療には、原因に応じた方法が取られます。
生理的飛蚊症は治療の必要はありません。加齢により一度濁った硝子体は元に戻ることはありませんが、病気ではありません。濁っている場所によって強い不快感がある場合には、手術治療が行われることもあります。
病的飛蚊症の場合は、網膜裂孔・網膜剥離など、原因となる病気の治療が必要です。糖尿病や高血圧といった出血しやすい病気に起因する硝子体出血による飛蚊症であれば、安静にするとともに、糖尿病や高血圧への対策が求められます。
加齢黄斑変性との違い
加齢黄斑変性とは、加齢が原因となり網膜の中心部である黄斑に障害が生じ、ものの見えかたに異常が起こり、視力低下にもつながる病気です。欧米では広く知られた目の病気で、成人の失明原因の第1位となっています。高齢化が進む日本でも近年増加傾向にあり、失明原因の第4位となっています。
高齢になるほど多くの人が発症する点は白内障との共通点でもありますが、白内障は水晶体に濁りが生じるという点で違いがあります。
加齢黄斑変性の症状・原因
加齢黄斑変性は、加齢とともに網膜色素上皮の下に老廃物が蓄積し、黄斑部が障害される病気です。網膜色素上皮が徐々に萎縮していき網膜が障害される「萎縮型」、新生血管の出現・血液成分の漏出により網膜が障害される「滲出型」のふたつに大きく分類されます。
いずれも視力の低下を招き、ものがゆがんで見える、視界の中心部が暗く見えるなどの症状が現れます。
加齢黄斑変性の治療
萎縮型の加齢黄斑変性には治療方法がありませんが、滲出型の加齢黄斑変は治療が可能です。
- 抗VEGF療法・光線力学的療法
抗VEGF療法とは、目の中の硝子体内に薬を注射する薬物療法のことをいいます。この際に用いられる薬が、新生血管の増殖や血液成分の漏れの原因となるVEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑える薬剤です。注射後は定期的な診察を続け、必要に応じて注射を繰り返し行います。
レーザー照射により新生血管を破壊する「光線力学的療法」と組み合わせて行われることもあります。
- 手術(ほとんど行われていません)
過去には新生血管の除去や、黄斑を移動させる手術が行われていましたが、抗VEGF療法の発展もあり、最近ではほとんど行われなくなりました。
糖尿病網膜症との違い
糖尿病網膜症は、糖尿病腎症・神経症とともに糖尿病の三大合併症のひとつに挙げられている、日本では成人の失明原因の上位にある病気です。
ものを見るために重要な役割を担う網膜には、無数の血管が張り巡らされています。糖尿病で血糖値が高い状態が長期にわたって続くと、その無数の細かい血管は変形したり詰まったりしてしまいます。血管が詰まると酸素不足を補おうとして、新生血管が生まれます。
しかしこの新生血管はもろいために簡単に出血し、その出血が原因で網膜剥離を起こすことがあるのです。
糖尿病網膜症の症状・原因
糖尿病網膜症は、進行期によって3つに分類されます。
- 単純糖尿病網膜症
初期の糖尿病網膜症を単純糖尿病網膜症といいます。細い血管の壁が盛り上がって生成される血管瘤や小さな出血が見られるほか、血管からたんぱく質や脂肪が漏れ出て網膜にシミが形成されることもあります。この時期には自覚症状はほとんどありません。
- 前増殖糖尿病網膜症
単純網膜症から少し進行した状態が、前増殖糖尿病網膜症です。網膜血管が広範囲で詰まり、新生血管を作り出す準備を始める段階です。目のかすみなどの症状が見られるようになりますが、自覚症状がまったくでないない方もいます。
- 増殖糖尿病網膜症
糖尿病網膜症が進行し重症化、新生血管が出現する段階です。この新生血管が破れると、硝子体に出血が生じ飛蚊症が現れたり、出血量によっては視力低下につながったりすることがありますます。
ほかにも、網膜の中心にある黄斑付近に毛細血管瘤が多発したり、血液成分が染み出したりすることで黄斑がむくむことがあります。糖尿病性黄斑浮腫といわれる状態で、こちらも視力の低下を招きます。
糖尿病網膜症の治療
糖尿病網膜症の主な治療法は次のふたつです。
- 網膜光凝固術
網膜光凝固術は、一般的に通院で行われるレーザー治療です。特定の波長のレーザー光で病的な網膜を凝固させることにより、病気の進行を抑制します。この治療は病気の進行を防ぐ目的として行われ、元の状態に戻すための治療ではありません。しかし、初期における網膜光凝固術は有効な手段で、大切な治療といえます。
- 硝子体手術
硝子体手術は、レーザー治療で糖尿病網膜症の進行を防ぐことができなかった場合や、網膜剥離や硝子体出血がすでに起こっている場合に対して行われる治療です。新生血管から漏れ出た血液を取り除いたり、はがれた網膜を元に戻したりといった治療が行われます。
光視症との違い
光視症は、実際には光が当たっていないにもかかわらず、視野に光が走って見えたり、キラキラ・チカチカしたりするような刺激を感じます。飛蚊症と併発することが多いことも特徴のひとつです。
光視症は、白内障と同様に、加齢とともに発症の可能性が高くなる病気です。網膜に接着している硝子体は、加齢とともに縮み網膜から剥がれやすくなりますが、その剥がれるときの刺激を光として感知することによっても、光視症は起こります。
光視症の症状・原因
光視症の原因には、目を原因とするものと、高血圧や脳血流の変化等でおこるものがあります。
- 硝子体剥離の際の刺激
網膜から水晶体が剥がれるときに、お互いが強く癒着していると容易には剥がれず、目を動かすたびに硝子体が揺れて網膜が引っ張られます。このときの刺激が光として感知されるのです。網膜と硝子体の癒着がなくなれば光は見えなくなりますが、癒着が長く残ると長期間にわたり症状が続くこともあります。
- 網膜剥離・網膜裂孔の前兆
網膜剥離になると硝子体に濁りが生じ、初期症状として光視症が現れることがあります。
- 高血圧や脳血流の変化等でおこるもの
目が原因で起こる光視症の多くは光の線が走るのに対し、脳血流の変化などが原因で起こるものはギザギザした光が走り、持続時間が少し長いという特徴があります。このような症状があるときは、脳血管障害などが隠れていないか確認するために神経内科などを受診するとよいでしょう。
光視症の治療
光視症の治療方法は、硝子体剥離の際の刺激による一過性のものか、網膜剥離など病気の前兆かによって変わります。眼底検査を行い網膜の状態を調べることが必要です。
- 硝子体剥離の際の刺激
眼底検査の結果、硝子体剥離の際の刺激であると判明した場合は、特に治療は必要とされません。念のため定期的に眼底検査を受け、経過を把握しておくとよいでしょう。
- 網膜剥離・網膜剥離裂孔の前兆
網膜裂孔や網膜剥離などが発見された場合は、すぐに治療が必要です。網膜剥離や網膜裂孔は初期であれば、レーザー治療で進行を抑制することも可能です。
白内障をはじめとした目の病気は、早期発見で対策しましょう
目に関する病気にはさまざまなものがあり、白内障同様に加齢とともに発症する病気も見られます。いずれの病気も初期であれば治療での回復が見込めたり、進行を食い止められたりすることも少なくありません。それぞれの病気の具体的な症状を理解し、目に違和感を覚える、当てはまる症状がみられる場合には、早期治療のために眼科を受診してください。