白内障は、主に加齢を原因として発症する目の病気です。80代になるとほぼ100%の人が発症するともいわれており、白髪などと同じく老化現象のひとつとも位置づけられるでしょう。
初期段階ではこれといった兆候が現れないことがほとんどで、痛みなどわかりやすい自覚症状もありません。そのため、発症したご本人は重症化に至るまで白内障に気づかないことも少なくありません。
そこで、ご家族の方々が症状にいち早く気づいてあげることができれば、より早期での治療が可能となるでしょう。
なお、白内障は手術によって治せる病気です。日本国内の治療実績も十分であり、「発症したら失明してしまうのではないか」といった過度な心配をすることはありません。とはいえ、「目の手術」と聞いて不安を感じるのは当然のことです。ご両親や祖父母の発症が疑われる際には、ぜひご家族の方からのサポートのもと、治療を促していただければと思います。
早期治療のため、そして術後の生活をより良いものにつなげていくためには、ご家族のみなさまのご理解、ご協力が大切となります。
- 白内障発症のシグナルにいち早く気づいてあげる
- しかるべき医療機関での検査を促す
- 手術を受けられるご本人の現在の生活習慣に寄り添い、手術で挿入するレンズ選びをサポートする
- 手術を前にした不安の払しょく
- 手術当日の付き添いと術後の介助
このように、白内障を発症したご本人に向け、ご家族の方にできるサポートにはさまざまなものがあります。順にご確認ください。
なお、当サイト監修「南大阪アイクリニック」渡邊敬三医師による解説動画もご用意しております。Youtube動画もぜひ併せてご覧ください。
白内障とはどのようなものか
白内障は、中高年の方がかかりやすい目の病気のひとつです。80代ではほとんどの人になんらかの症状が見られるようになり、早い人であれば40代から発症します。
具体的には、白内障は加齢などの原因により目の水晶体が濁ってしまう病気です。その結果、「光がまぶしく感じる」「ものが二重に見える」といったように、見え方にさまざまな違和感が現れるようになります。
手術では、見え方の違和感の原因となっている濁った水晶体を除去し、目の中に人工のレンズを挿入する治療を行います。薬で治すことはできないため、白内障が進行し日常生活に支障が出てくるようになると、手術が必要になってきます。
発症のシグナルを見逃さず早期治療を
ほかの病気と同様に、白内障の治療においても早期発見、早期対応が大切です。ご家族の方に以下のような症状が現れていないか、発症のシグナルを注視してみてください。
- 「読んでいると疲れる」と、新聞や本を読むことが減った
- 日差しの強い場所で、まぶしさを訴える機会が増えた
- ちょっとした段差でつまずくようになった
- 「ものが二重に見える」と訴えることがある
- 「テレビの字幕がぼやける」と見えにくそうにしている
- 「近くがよく見えるようになった」と話している
- 老眼鏡を使う機会が減った
- 自動車の免許更新が行えなかった
- 買ってからそれほど経っていない眼鏡が合わなくなった
こうしたシグナルに思い当たるところがないかご確認ください。その他、日常生活において見え方の不調を訴えることがあれば、医療機関の受診をご検討ください。
白内障は、よほど進行しない限り目が完全に見えなくなることはありません。それなりに日常生活を送ることができてしまうからこそ、発見が遅れがちになる病気でもあります。ご家族に気になる兆候が見られる場合は、こちらの「白内障セルフチェック」も合わせてご確認ください。
白内障の検査
上記のような症状から、白内障の発症が疑われる場合は、医師による検査を受診します。白内障を診断するために必要な検査は、最寄りのクリニックや眼科であれば、基本的にはどこでも受けることが可能と考えていただいて構いません。
ただし、「白内障の検査はどこで受けても同じ」とはなりません。できれば実際に白内障手術を行っている眼科にご相談いただくことが望ましいです。それは、手術を行っていない眼科では、目のかすみやまぶしさといった白内障の症状が現れている場合でも、視力低下が見られなければ手術をする必要がない、と判断されるケースがあるためです。
日常生活に支障が出てくるまでに白内障が進行してくると、手術が必要になってきます。しかるべきタイミングで手術を受けていただけるよう、実際に白内障手術を行っている眼科での検査を促していただければと思います。
白内障の検査項目
白内障の検査には、白内障を診断するために行われる検査、手術が決まった際に行う手術前検査があります。
【白内障を診断するために行われる検査】
- 屈折検査
- 角膜形状解析検査
- 視力検査
- 細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)検査
- 眼底検査
- 眼圧検査
- 視野検査
- 光干渉断層計による眼底検査
など
これらさまざまな検査から、白内障が発症しているのか、および進行の度合いを確認していきます。
診断の結果、手術をすることが決まった場合は、手術前検査を行います。なお、この手術前検査は手術後の見え方、つまり手術後の生活にも直結してきます。目の中に入れる人工レンズ(眼内レンズ)の度数や種類を決定するために行われる、最も重要な検査とご認識ください。
【手術前検査】
- 角膜曲率半径
- 眼軸長
- 前房深度
- 水晶体厚
- 角膜内皮細胞数測定
など
繰り返しとなりますが、手術前検査は手術後の生活に直結する非常に重要な検査です。測定ミスは許されません。古いタイプの測定装置を用いている場合、測定誤差から眼内レンズの度数にも影響がでることがありますので、どのような検査機器が導入されているのか、医療機関に確認するとよいでしょう。
白内障の検査について、詳しくはこちらの記事も合わせてご確認ください。
眼内レンズの選択
手術前の精密検査の結果を受け、眼内レンズを決定します。この眼内レンズの選択も、手術後の生活の快適さを左右する重要な事項です。
眼内レンズの選択において大切なのは、手術前検査から決定される度数はもちろんのこと、手術を受けられるご本人のライフスタイルとの親和性です。ご本人は普段どのような生活をされているのか、手術後にはどのような生活を送りたいと考えているのか、これらの具体的なイメージから、最適な眼内レンズは決まってきます。
- 主婦業が主だけど洋裁もしたい
- 本が好きで2~3時間は読む
- ちょっとした外出でいちいち眼鏡をかけるのはイヤ
- ゴルフボールの軌道や落ちるところをはっきり見たい
手術を受けられる方の生活や希望は十人十色です。こうした生活習慣や意向から、使用する眼内レンズの種類を決定するのです。ご家族の方であれば、これらの希望はよくご存じかと思われます。眼内レンズの種類を決定するにあたり、ご本人のお考えを整理するサポートをしてあげてください。
なお、眼内レンズには「単焦点レンズ」と「多焦点レンズ」があり、それぞれ特徴は異なります。こちらの記事から詳細をご確認ください。
白内障の手術
手術では、白内障の原因となっている濁った水晶体を除去し、眼内レンズを挿入する治療を行います。所要時間は10~20分ほどで、痛みもほとんどありません。
特に身体に問題がなければ日帰り手術も可能であり、日帰り手術は白内障の手術件数の7割以上を占めています。身体への負担もかからないため、休日を利用して手術を受けることも可能です。入院することでかえって体調を崩す可能性がある方などは、日帰り手術で普段通りの生活を送るほうが体への負担が少なくなることもあるでしょう。
なお、現在主流として行われている手術の方式は、「超音波乳化吸引術」そして「レーザー白内障手術」です。ともに安全性の高い手術であり、安心して受診いただけますが、なかでも最先端の手術方法であるレーザー白内障手術はより高精度での手術が可能になっています。
白内障手術の安全性や、レーザー手術の詳細につきましては、これらの記事も合わせてご確認ください。
手術を前に、不安を払しょくするサポートを
しかし、安全な手術であることを頭では理解していても、実際に目の手術を受けるとなれば、不安を感じるのは当然のことです。ご家族の皆様には、そうした不安をやわらげるためのサポートをいただければと思います。
- 痛くないかな?
- 手術中に目が動いても大丈夫なのかな?
- ちゃんと見えるようになるのかな?
手術を前にしての不安や恐怖心は、こうした未来に起こってしまうかもしれないネガティブな発想から生まれてくるものです。ネガティブな発想を払しょくするために、ポジティブな未来を一緒にイメージしてあげてください。
- お孫さんを公園に連れて行って、芝生の上でお弁当を広げて、気持ちいい青空を眺めている姿
- 読むのがしんどくなり、本棚に置かれたままだった本を読んでいる姿
- 追えていなかったゴルフボールの行き先が見えて、爽快な気分を感じている姿
白内障が治った生活には、ポジティブなイメージがあふれています。こうしたイメージを誰よりも具体的に描いていただけるのは、ご家族の皆様にほかなりません。ぜひ一緒に明るい未来を考えていき、不安を和らげるサポートをいただければと思います。
手術の付き添い・術後のサポート
白内障手術当日の付き添いは不可欠なものではありません。ただし、当日は手術終了後に治療した目に眼帯をするため、視野が狭くなります。高齢の方や体が不自由な方は付き添いがあったほうが安心です。
そして手術を受けられる方にとって、ご家族の付き添いは何よりの安心材料となります。手術を受けられるのがご高齢の方である場合などは、ぜひ付き添いをいただければと思います。
また、手術後のサポートにおいてもご家族のサポートは重要です。手術後すぐによく見える方もおられますが、白内障の手術後の視力の回復には個人差があるため、手術直後の車の運転は原則として禁止です。ご家族の方による送迎を推奨いたします。
ご家族の方のサポートで、白内障の治療はより順調に進みます
白内障は手術で治る病気です。しかも手術は数10分ほど、痛みもほとんどありません。そのため、過度な心配をすることはありませんが、ご家族の方のご協力をいただければ、治療はより円滑に進んでいきます。
早期発見への注力から、治療へのナビゲート、医療機関の選択、生活習慣に基づいた眼内レンズ選択、手術にあたっての心理的なサポート、そして手術当日の介助と、ご家族の方にできることはさまざまあるものです。安全に手術を受け、今後の家族の生活をより良いものとしていくべく、ぜひ治療を受けられるご本人に寄り添っていただければと思います。