白内障手術の眼内レンズ(人工レンズ・IOL)とは
白内障は目の水晶体が濁り、ものがかすんで見える、視力が低下するなど、見え方にさまざまな症状が現れる病気です。
白内障の手術では濁った水晶体が取り除かれますが、水晶体はカメラでいうレンズの役割を果たす部位であり、取り除かれたままではものをはっきり見ることができません。そこで、目の中に直径6ミリほどの非常に小さな人工レンズ(眼内レンズ・IOL)が挿入されるのです。
複数ある眼内レンズの種類や、手術後の見え方の違いについて解説していきます。
白内障眼内レンズ(IOL)の種類:単焦点レンズと多焦点レンズ
人工水晶体ともいえる眼内レンズは、大きく分けて以下の2種類があります。
- 単焦点レンズ
- 多焦点レンズ
このふたつは、ピントが合う場所が異なります。単焦点レンズは1か所に、多焦点レンズは遠距離と近距離にピントが合うようになった、遠近両用レンズです。レンズごとに詳細を見ていきましょう。
単焦点レンズ
人間の目にはカメラでいうレンズの役割を果たす水晶体があり、その厚さを調節することで、近くにも遠くのもピントを合わせることができます。しかし、人工レンズではそういった調節はできず、水晶体が持つすべての働きに取って代わることはできません。
単焦点レンズは、そのレンズでぴったり焦点の合う1点がはっきり見えるようになり、遠距離か近距離のどちらか一方にピントを合わせます。
どのくらいの場所に焦点が合うようにするかは、ゴルフや登山などが趣味の方や車の運転をよくされる方は遠方に、家の中ですごすことが多い方は2mくらいに、読書やパソコンを一日中しているという方は近方にあわせるなど、趣味や仕事など生活環境に合わせて調節することができます。
写真は日本アルコン株式会社が発売した、最新型の単焦点レンズです。レンズが挿入器にあらかじめセットされたプリセット型を採用しており、安全かつ高精度に眼内レンズを挿入できます。
単焦点レンズの見え方とメリット
単焦点レンズのメリットとして、以下のふたつが挙げられます。
- 焦点が合う場所ははっきりと見えること
レンズの焦点を合わせた距離は、多焦点レンズに比べはっきりと見えます。手芸や読書などが趣味の方は、手元がよく見えるタイプの単焦点レンズが向いています。一方、日常的に車を運転される方などには、遠距離にピントを合わせた単焦点レンズが適しています。
- 健康保険が適用されること
超音波手術で単焦点レンズを挿入する場合は、健康保険が適用されます。自己負担割合額が3割の方の場合の日帰り手術は、片目4万5千円ほど、1割負担の方であれば片目1万5千円ほどで手術を受けられます。
単焦点レンズのデメリット
単焦点レンズのデメリットは以下のふたつが挙げられます。
- ピントの合う場所が1点
- 見にくい距離は眼鏡での矯正が必要
単焦点レンズは、ピントが合う場所が1点に限られるため、見にくい場所を見るには眼鏡を使う必要があります。近くに焦点を合わせたレンズを使った場合は近視用の眼鏡、遠くに焦点を合わせたレンズを使った場合は老眼用の眼鏡が必要です。
なるべく眼鏡を使う頻度を減らしたい方や、日常的にスポーツを行っている方などは、次に説明する多焦点レンズが向いています。
多焦点レンズ
多焦点レンズは、遠距離と近距離に焦点が合うようになったレンズで、手元から遠くまで見えやすくなるため、手術後に眼鏡を使う頻度を大幅に減らすことが可能です。
また、いまでは中間距離も含めた3点にピントが合う種類のレンズも登場しています。
多焦点レンズの見え方とメリット
多焦点レンズのメリットとして、以下のふたつが挙げられます。
- 遠近両方に対応していること
- 術後に眼鏡を使用する頻度が減り、日常生活が楽になる
多焦点レンズは、遠近両方に対応しておりピントの合う範囲が広いので、手術後に眼鏡を使う頻度を減らすことができます。人によっては眼鏡を一切使わずに生活することも可能になるため、スポーツをされる活動的な方などには特におすすめしたいレンズです。
また、多焦点レンズのピントは2焦点にとどまるものではありません。厚生労働省が認可する3焦点レンズである「パンオプティクス(PanOptix)」も登場し、遠(5m以上)・中(60cm)・近距離(40cm)に焦点を合わせられ、運転やテレビ視聴、さらにパソコンやスマホ、読書についても眼鏡なしで楽しむことができるようになっています。
多焦点レンズのデメリット
多焦点レンズのデメリットは次の通りです。
- 手術費用が高額になること
多焦点レンズの挿入手術は、自由診療または厚生労働省の認可する医療機関での先進医療によって行われます。健康保険が適用される単焦点レンズ挿入手術と比較して費用は高額となり、片目40万円〜60万円ほどが目安となります。
ただし、個人で加入されている医療保険に先進医療特約が付与されている場合には、給付金が支給されることもあります。
(※2020年1月追記)多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は先進医療から外れ、保険診療+選定療養として行われることが決定しました。下記の記事を合わせてご確認ください。
- 緑内障など他の眼疾患がある場合など人によっては使用できないことがある
多焦点レンズは緑内障などのほかの目の病気がある場合は適応になりません。また、角膜に強い乱視がある方には適切ではないレンズもあります。見えかたがこれまでとは違うため、馴染むのに数ヶ月かかる方もいます。
- グレア・ハローなどの違和感が起こること
グレア・ハローは、夜間に車のライトや街灯などの光がにじんで眩しく見える現象です。夜間ドライバーや長距離運転手など車を運転する機会が多い方は、医師に相談し慎重に判断しましょう。
乱視矯正用のレンズもある
白内障で使用する眼内レンズには、同時に乱視矯正も可能な「トーリック眼内レンズ」もあります。
乱視には水晶体に原因がある場合と、角膜の歪みが原因となる場合があり、水晶体が原因の場合であれば、白内障手術により軽減することが可能です。一方、角膜の歪みが原因の場合の乱視は残ったままとなりますが、トーリック眼内レンズを使用することにより、眼鏡と同様に乱視を軽減できるのです。
最新機器によるレンズの選択や手術精度の進化
白内障手術に使われる医療機器は、日々進化しています。 より正確で、安全な手術のためにこれまでにさまざまな機器が開発されてきました。その一部を見ていきましょう。
- 術中波面収差解析装置
白内障手術では、事前に最適なレンズの度数を計算していますが、手術中にわずかなずれが生じます。そのずれをリアルタイムで確認しながら微調整することを可能にするのが術中波面収差解析装置です。ずれを最小限に抑えることで、術後の見え方を改善できます。
- 白内障手術ガイドシステム
眼の表面を解析して、手術で切開する位置やレンズを固定する位置などのガイドを顕微鏡やモニターに表示し、手術の精度をより高めます。
このように、レンズを的確な位置に固定する精度アップや、最適なレンズ度数の選択により、術後の見え方の満足度が向上しているのです。
眼内レンズの寿命~半永久的に使えるが交換も可能
白内障の手術で一度入れたレンズは、再手術すれば交換することが可能です。ただし、通常眼内レンズは半永久的に使えるものであり、見え方に問題がない限りは交換する必要はありません。
レンズがずれた時の対処法
頭を打つといった強い衝撃をうけると、眼内レンズが目の中で大きくずれてしまうことがあります。その場合にはレンズの固定をしなおす手術を受ければ元の見え方に戻せます。
ライフスタイルに適したレンズを選びましょう
単焦点・多焦点眼内レンズには、それぞれ見え方に特徴があります。読書をする機会が多い、パソコンの前にいる時間が長い、スポーツのときに眼鏡をかけたくない、眼鏡をかけること自体が嫌いなので使用頻度を減らしたいなど、ご自身のライフスタイルやご希望に合わせた眼内レンズを選びましょう。
多焦点レンズを取り扱っていない医療機関では、そのデメリットだけが強調され単焦点レンズが使用されてしまうことや、もともと近視用のメガネをかけていたから近くにピントを合わせるといったように、医師主導でレンズが決められてしまうこともあります。眼内レンズの種類はさまざまです。ご自身に最適な種類を選べるようレンズにまつわる知識を習得し、手術の前に医師と十分に相談しましょう。